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行動の分子レベルでの理解のために

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線虫の感覚受容のメカニズムの解明

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神経回路の働きの解析

特定の神経細胞の遺伝子発現の解析



- 線虫の説明 -
線虫をよく知らない方は
こちらを参照して下さい。


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連合学習におけるインスリンシグナル伝達経路の機能

 哺乳類においてインスリンは血糖値の調節などの代謝制御をしていることはご存知の通りですが、線虫においてもインスリンが存在します。その働きは哺乳類と同様の代謝制御を始め、耐性幼虫形成や寿命制御など様々です。我々は、線虫におけるインスリンの新たな機能として学習行動を制御していることを発見しました。線虫ゲノムには約40種類ものインスリン様分子が予測されていますが、面白いことに代謝などの制御をしているものとは異なる種類のインスリンにより学習行動は制御されていることがわかりました。

既存変異体を用いた解析や、2重変異体を作成しその学習能を調べることによりINS-1(インスリン)の下流で働くシグナル伝達経路が明らかになった。

−連合学習においてインスリン経路(insulin pathway)はどの様に働いているか?−
NaClと飢餓刺激との連合学習においてINS-1 (インスリン)AGE-1(PI 3キナーゼ)が働く細胞の同定を行いました。蛍光タンパク質GFPを用いた発現解析と細胞特異的プロモーターを用いたレスキュー実験によりそれぞれのタンパク質がどの神経において機能しているのかを調べました。その結果、AGE-1はNaCl受容性のASE感覚神経で、またINS-1は感覚神経からの入力を受けるAIA介在神経で機能することがわかりました。また、インスリンシグナル伝達が働く時期を熱ショックプロモーターを用いたレスキュー実験により同定しました。その結果、このシグナル伝達は神経回路形成の完了した成虫期に働くことがわかりました。以上のことから、インスリンシグナル伝達経路の制御メカニズムとして、「条件付け時に介在神経より放出されたINS-1(インスリン)がNaCl受容性感覚神経に作用し、その機能を修飾しているモデル」が示唆されました。

連合学習におけるインスリン様シグナル伝達経路の作用モデル:飢餓とNaClによる条件付けに応答してINS-1(インスリン)は分泌され、ASE感覚神経のDAF-2(インスリン受容体)に作用し、AGE-1(PI3キナーゼ)によるシグナル伝達経路を活性化し、誘引行動から忌避行動への切り替えを制御していると考えられます。

近年、哺乳類においても記憶学習とインスリンとの関わりが示唆されています。例えば、アルツハイマー病患者では脳内のインスリンレベルが著しく低下しており、インスリンの投与により記憶学習能が回復するという報告があります。しかし、その生体内における制御メカニズムはほとんどわかっていません。今後、我々の線虫を用いた解析からインスリンシグナル伝達のより詳細な制御メカニズムが明らかになることが期待されます。現在、AGE-1(PI3キナーゼ)によるシグナル伝達の下流でどの様な制御がなされているのかを解析中です(サプレッサースクリーニングによる連合学習に関わる分子の探索参照)。

−連合学習において働く感覚神経の非対称性−
「右脳派人間」、「左脳派人間」という言葉があるとおり、我々ヒトの脳は左右で異なる機能を持つことはご存知の通りです。例えば、右脳はイメージ機能を司り、左脳は言語機能を司っていると言われています。線虫の神経系も構造上は左右対称ですが、左右で異なる性質を持つことが知られています。例えば、NaCl受容性のASE感覚神経は左右で発現する遺伝子の種類や受容するイオンが異なっています。
連合学習では左右のASE感覚神経で同じ制御がなされているのでしょうか?。面白いことに、連合学習においてインスリンシグナル伝達が働くのは主に右側に位置するASE感覚神経であることがわかりました。なぜこのようなことが起こるのか?(・・・左右の神経が接続する神経回路の違いに起因しているのか?神経自体の性質の違いに起因しているのか?)、そもそも、左右非対称である必要性はあるのか?など様々な疑問は湧いてきますが、答えを得るために現在研究を進めています。
(富岡征大)

左側のASE神経(ASEL)はgcy-7 遺伝子を右側のASE神経(ASER)はgcy-5 遺伝子を発現する(どちらの遺伝子も水溶性イオンの受容に関わるグアニリルシクラーゼをコードしている)。ASEL神経は主にナトリウムイオンを、ASER神経は主にカリウムイオンと塩化物イオンを受容する。ASER神経はAIA神経とADL神経からのシナプス結合を受けるがASEL神経は受けない。我々の解析から、連合学習においてage-1が機能するのはASER神経であることがわかった。(三角形:感覚神経、六角形:介在神経、楕円形:運動神経、矢印:シナプス結合)