研究成果 岡崎統合バイオサイエンスセンター・東島眞一 平成21年 5月27日

ゼブラフィッシュにおいて、早い逃避行動に重要な役割を果たす、特殊なクラスの交差型抑制性介在ニューロン

佐藤千恵1、木村有希子1、小橋常彦2、堀川一樹3、武田洋幸3、小田洋一2、*東島眞一1(1, 自然科学研究機構・岡崎統合バイオサイエンスセンター、2, 名古屋大学・大学院理学系研究科生命理学専攻、3,東京大学・大学院理学系研究科生物科学専攻)*:corresponding author

Journal of Neuroscience 29: 6780-6793, 2009

 脊髄運動系神経回路を解析する目的で、脊髄内の非常に少数の神経細胞でGFPを発現するエンハンサートラップラインTol056を用い、Tol056でGFPを発現する神経細胞(以下、CoLoニューロンとよぶ)の機能を解析しました。その結果、脊髄内に各体節に1つずつ存在するCoLoニューロン(図1)が、魚の逃避行動の方向性にきわめて重要な役割を果たしていることを明らかにしました。魚の逃避行動においては、後脳に一対あるマウスナー細胞が逃避行動の開始の引き金となることが知られていましたが、今回の研究成果により、(1) 方向性のない刺激に対しては、脳内の指令細胞である2対のマウスナー細胞はしばしば両方が発火してしまうこと、(2)しかしながらそのような場合でも、脊髄内のCoLoニューロンが作りなす抑制性神経回路が働き、魚は先に来た命令に従って適切な逃避行動を行うことができることを明らかにしました(図2)。本研究は、脊髄内での情報処理が、私たちが一般に考えているよりも適切な行動の発現に重要な役割を果たしていることを示唆するものであります。

 

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図1:ゼブラフィッシュの脊髄で、GFPによって可視化されたCoLo細胞。この神経細胞が、魚の逃避行動に関与していると考えられた。なお、脳で逃避行動を命令するマウスナー細胞(脳にある二対の細胞)もGFPで可視化されている。

 

 

 

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図2:CoLoニューロンによる、脊髄内抑制性神経回路の模式図。左右のマウスナー細胞がほぼ同時に発火してしまった場合においても、脊髄内のCoLoニューロンが作り出す抑制性神経回路により、命令のわずかな時間差を関知し、魚は先に来た指令の方向へ逃避運動を行うことができる。

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