研究成果 国立遺伝学研究所・平田普三 平成24年1月6日

未熟な神経回路でニューロン活動が散発的でも運動が可能になる仕組み

*平田 普三(国立遺伝学研究所・新分野創造センター)、Hua Wen(オレゴン健康科学大学)、川上 裕(名古屋大学)、長縄 由里子(名古屋大学)、荻野 一豊(国立遺伝学研究所)、山田 健太(国立遺伝学研究所)、Louis Saint-Amant(モントリオール大学)、Sean E. Low(モントリオール大学)、Wilson W. Cui(ミシガン大学)、Weibin Zhou(ミシガン大学)、Shawn M. Sprague(ミシガン大学)、浅川 和秀(国立遺伝学研究所)、武藤 彩(国立遺伝学研究所)、川上 浩一(国立遺伝学研究所)、John Y. Kuwada(ミシガン大学)*:corresponding author

Journal of Biological Chemistry 287: 1080-1089, 2012

脊椎動物は胎児期に運動能力を獲得します。例えばヒトでは、自発的に、あるいは外界からの刺激に応答して胎児が短時間動くこと(胎動)、サカナでは胚が逃避行動をとることが知られています。運動に必要な神経回路が未熟であるにもかかわらず、どのようにしてオーガナイズされた運動が可能になるのかはこれまで不明でした。ゼブラフィッシュをモデルにした私たちの運動の研究で、胚期(胎児期)の運動の調整にギャップジャンクションによる電気的カップリングが不可欠であることが明らかになりました。運動は、脊髄にある運動ニューロン群が規則正しく発火し、骨格筋(ヒトでいうと腕や脚の筋)を規則正しく収縮させることで可能になります。しかし、神経回路が未熟な胚期では、運動ニューロンは運動時に散発的にしか発火しないことが分かりました。その結果、connexin39.9 の変異によりギャップジャンクションを欠くゼブラフィッシュ変異体では、各骨格筋線維は散発的にしか収縮せず、全体として運動能が著しく低下していました。一方、正常個体の筋はギャップジャンクションを介して電気的にカップリングしており、神経出力を受ける細胞が少数でも、それを近隣細胞で分け合うことで多くの筋線維を収縮させ、力強く同調的な運動を可能にしていることが分かりました。従来、分化した骨格筋にはギャップジャンクションは存在しないと教科書に記述されていましたが(Molecular Biology of the Cell, 第4版)、本研究はそれを覆す発見になりました。


 

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図1:正常なゼブラフィッシュ胚は受精後24時間までに運動能を獲得し、尾を左右に振る運動を行う。一方、connexin39.9の変異体では運動性が低下していた。


 

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図2:パッチクランプ法による筋電流記録で神経出力を解析すると、正常個体ではリズミックな出力が得られるが、connexin39.9の変異体では出力は散発的であった。このことから、本来胚期の神経出力は散発的であるが、ギャップ結合による電気的カップリングを介した出力補正により安定な出力を得て運動していることが分かった。


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