研究成果 東京大学・飯野雄一 平成21年6月23日(1)、平成22年1月(2)

線虫の味覚神経の左右非対称なイオン感受性のしくみ

高山 順、國友博文、*飯野 雄一(東京大学・大学院理学系研究科生物化学専攻)*:corresponding author

1) Current Biology 19: 996-1004, 2009
2) Nucleic Acids Research 38: 131-142, 2010

 NaClなどの塩類は、線虫の頭部にある左右一対の味覚神経(ASE神経)で主に受容される。左右のASE神経(ASELおよびASER)は形態的には左右対称であるにも関わらず、機能的に差異がある。例えば、Cl-イオンは主にASERで、Na+イオンは主にASELで受容されるなど受容するイオンが異なる。左右のASE神経の機能の違いを完全に解明することを目的として遺伝子発現プロファイリングを行った。以前に開発したpoly(A)タギング法(國友ら、Genome Biology 6:R17,2005)とマイクロアレイを用い、ASERとASELに差をもって発現する遺伝子のリストを作成した。この中には、膜貫通型グアニル酸シクラーゼのファミリー、神経ペプチド、TRPチャネルなどが含まれていた。左右非対称に発現する膜貫通型グアニル酸シクラーゼ(サイクリックGMPを合成する酵素)の遺伝子(gcy遺伝子)のほとんどについてOliver Hobertの研究室と共同で欠失変異体を作製または入手し、さまざまなイオンに対するASERおよびASEL神経の応答と化学走性を調べたところ、変異体の多くが1~2種のイオンに対する神経応答と化学走性にのみ特異的な欠損を示すことがわかった。これらの結果からgcyファミリーがイオンを感じるための受容体である可能性が示唆された。

 

 

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A:左右の味覚神経、ASELおよびASERの形態と発現する遺伝子。いくつかのgcy遺伝子の欠失変異体は特定のイオンの感受ができない。 B:ASELおよびASER感覚神経で働く分子の機能の模式図。GCY(グアニル酸シクラーゼ)はサイクリックGMP(cGMP)を作り出す。cGMPはCNGチャネルを開かせ、これにより陽イオンが流入、さらにカルシウムチャネルも陽イオンを流入させ神経が興奮する。

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*:corresponding author