研究成果 東京薬科大学・上川内あづさ  平成22年2月11日

Mechanical feedback amplification in Drosophila hearing is independent of synaptic transmission.
ショウジョウバエの聴覚器において、機械的な振動増幅はシナプス伝達に依存しない

*上川内 あづさ(東京薬科大学・生命科学部)、*†Joerg T. Albert(The Ear Institute, University College London)、Martin C. Gopfert(University of Goettingen)*:first author †:corresponding author 

European Journal of Neuroscience31, pp697-703. 2010.

  多くの動物は音を利用して外界の情報を得ています。しかし動物はただ受動的に音を受け入れているわけではなく、どのような音を聞くかを神経系の様々なレベルで調節しています。例えば哺乳類は、中枢神経から末梢受容器にシナプスを介したフィードバックをかけることで、受容器の感度を調節することが知られています。今回私たちはショウジョウバエの聴覚器において、同様の感度調節機構があるのかを調べました。その結果、末梢受容器には入力シナプスの分布は観察されず、中枢神経からの制御を受けていないことが示唆されました。さらに全ての神経細胞の伝達を遮断したショウジョウバエを作り、聴覚器の振動と神経活動を測定したところ、弱い音に対する選択的な振動増幅や音への神経応答は、野生型個体と同程度に保たれることが分かりました(図1)。このことから、遠心性神経から制御を受ける哺乳類の振動制御機構とは異なり、ショウジョウバエ聴覚器は中枢を介さない局所的な振動制御を受けていると推定されました。ショウジョウバエの聴覚器は、それ自体が能動的な感覚器としてどのような音を受け取るかを調節する自律性の高い器官であると考えられます。

 

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図1A:刺激がない時の聴覚器振動。聴覚器(触角)の周波数ごとの振動強度をパワースペクトル密度で示してある。対照群の個体(対照群)と全ての神経細胞の伝達を遮断した個体(実験群)において、聴覚器の振動特性には目立った差は見られない。青線は代表的な個体のパワースペクトル、黒線はそのパワースペクトルを関数近似したもの、灰色はその他の個体のパワースペクトルの関数近似を示す。挿入図は、神経伝達を遮断する毒素の発現をGFPで標識して確認したもの。矢印はGFPシグナルを示す。スケールバーは50 µmを示す。a2、触角第二節;a3、触角第三節。

B:音刺激を与えた時の聴覚器振動。平均値±標準偏差を示す。対照群個体(左図)において、音量(Stimulus particle velocity)が弱まると、聴覚器の振動は非線形的に増幅される(上図、赤線部分が非線形の領域を、オレンジ線部分が線形の領域を示す)。その増幅の度合いを、音量に対する聴覚器の感度として下図に示す。ごく弱い音に対する増幅の程度は、対照群と実験群でほぼ同等であることが分かる。

C:聴覚器の振動に関する主要なパラメータ。平均値±標準偏差を示す。最適周波数(Best frequency)、周波数スペクトルの尖鋭度合い(Quality factor)、自発振動力(Fluctuation power)、弱音に対する振動増幅の度合い(Sensitivity gain)のいずれのパラメータも、対照群(灰色)と実験群(白色)で有意差は検出されない。

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