研究成果 大阪大学・木村幸太郎 平成22年12月1日

線虫C. elegansの匂い忌避学習はドーパミンによって制御される

*木村幸太郎1、藤田幸輔1桂勲2、1大阪大学大学院理学研究科 2国立遺伝学研究所 *:corresponding author 

Journal of Neuroscience 30: 16365-16375, 2010

 刺激に対する動物の応答が経験によって変化する事を、広義の「学習」と呼びます。動物の刺激応答行動にはさまざまな学習が存在しますが、そのメカニズムが明らかになっているものは限られています。今回私達は、モデル動物・線虫C. elegansの嫌いな匂いに対する忌避行動が、事前にその匂いを嗅ぐ事によって増強する(より遠くまで逃げるようになる)という学習を示す事、またこの学習に神経伝達物質ドーパミンが必要である事などを明らかにしました。さらに興味深い事に、ドーパミン受容体の働きを抑えるハロペリドールなどヒトの抗精神病薬がこの匂い学習を抑える事も発見しました。ドーパミンはヒトの意欲や快感などさまざまな脳のはたらきに関連する事が知られていますが、そのはたらきの詳しいメカニズムには不明な点が多く残されています。今回の成果を基に、遺伝子レベルの解析が容易なC. elegansを用いて研究を行う事によって、ドーパミンのはたらきの分子メカニズムを効率良く明らかにすることができるだろうと期待できます。

 

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図1 C. elegansの匂い忌避行動

通常の条件で飼育したC. elegans (naive) は、直径9cmの寒天培地上で12分間に中央 (origin) から半分程度まで逃げた。しかし、事前に同じ匂いを嗅いだC. elegans (preexp.) は、同じ12分間により遠くまで逃げた。odorは嫌いな臭いをスポットした位置。avoidance indexは、逃げた距離を表す。 

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