研究成果 大阪バイオサイエンス研究所・小早川高 平成22年3月11日

神経回路の機能に基づいて哺乳類の本能情動を制御する機能性匂い分子の開発

*小早川高、小早川令子(大阪バイオサイエンス研究所・神経機能学部門)*:corresponding author 

第10回バイオビジネスコンペJAPAN・最優秀賞受賞 平成22年3月11日

 匂い分子はヒトや動物の情動や行動に様々な影響を与えます。情動とは食欲、性欲、恐怖、母性などのヒトや動物の生存に欠かせない本能を呼び起こす心の働きです。私たちはマウスの匂いに対する様々な種類の情動が特定の嗅覚神経回路によって先天的に制御されていることを世界に先駆けて発見していました。本研究では、恐怖反応を先天的に誘発する嗅覚神経回路の活性に着目することで、これまでに知られていた天敵の分泌物由来の匂い分子に比較して、遥かに高い活性で先天的な恐怖情動を誘発する人工物由来の新たな匂い分子の同定に成功しました。嗅覚神経回路の機能に着目するという独自の観点からの研究によって、自然界に存在する匂い分子よりも生理活性の高い人工物由来の匂い分子が同定できることが実証されました。近年、有害鳥獣が人間の生活圏へ侵入することによる被害は拡大し続けています。本研究による成果は、これまでにない強力な有害鳥獣忌避剤の開発に応用できます。最先端の基礎科学研究の成果をバイオビジネスへ展開することで、広く一般社会に還元する可能性を開いたとして、第10回バイオビジネスコンペで最優秀賞として表彰されました。

 

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図1 私たちは神経回路の改変という独自の手法を用いて、匂いに対する情動反応に異常のある各種モデル動物を開発しました。これらのモデル動物を用いて情動を制御する神経回路並びに情動を評価する指標を発見しました。写真は特定の嗅細胞を除去することで、天敵の匂いを感知できるのに、その匂いを危険であると判断できなくなった恐怖情動の異常マウスです。各種情動を制御する神経回路は新たな創薬ターゲットです。また、各種情動を制御する匂い分子を神経回路の機能に着目して同定できます。

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