研究成果 大阪バイオサイエンス研究所・小早川高 平成22年4月14日

同種と異種の動物間の社会コミュニケーション反応を制御する匂い分子に応答する糸球クラスターの発見

松本英之1、*小早川高2、小早川令子2、田代卓哉3、森謙治3、坂野仁4、森憲作1 (1 東京大学・大学院医学系研究科細胞分子生理、2大阪バイオサイエンス研究所、3理化学研究所、4東京大学・大学院理学系研究科生物化学専攻) *:corresponding author 

Journal of Neurophysiology 103: 3490-3500, 2010

 私たちが匂いを嗅いだ際の情報は嗅球と呼ばれる脳の領域で「匂い地図」へと変換されます。嗅球上には似た匂いに応答する糸球クラスター群(匂いクラスター)が存在します。一方で、嗅球上にはドメインと呼ばれる遺伝的に規定される領域が存在することが報告されていました。しかし、匂いクラスターとドメインとの対応関係はあまり調べられていませんでした。私たちは、嗅球上の特定のドメインを可視化したトランスジェニックマウスを用いることで、匂いクラスターの境界とドメインの境界が一致することを見出しました。この結果は、匂いクラスターが遺伝的に規定されている可能性を示唆しています。また、私たちはマウスの匂い地図がこれまで知られていたラットの匂い地図と種を超えて同じような配置になっていることを見出すとともに、天敵の匂いや同種個体の匂いなど動物間のコミュニケーション反応を引き起こす匂いに反応する新たな匂いクラスター(クラスターJ)を発見しました。これまで、匂いクラスターは似た構造の匂いに応答する性質があることが知られていましたが、今回発見したクラスターは構造は異なるものの似た生理活性を持つ匂いに応答する性質があることが分かりました。この結果は、嗅球上の匂いクラスターが動物に類似した行動を引き起こす一連の匂い分子に応答する可能性を示唆しています。

 

 

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図1
マウスに様々な匂いを嗅がせた際に活性化される嗅球の背側表面上の糸球をintrinsic signal imagingの方法で解析した。各々の匂いに対して応答する糸球のイメージングの結果(AaからGa)と、AからGの匂いグループに応答する糸球クラスター(AbからGb)を示した。また、嗅球上のドメインを可視化できるトランスジェニックマウスを用いて、DIドメイン(OCAM-&GFP-)、DIIドメイン(OCAM-&GFP+)、Vドメイン(OCAM+&GFP+)の糸球をマッピングした結果を合わせて示した。DIドメインとDIIドメインの境界を赤の点線で示す。似た構造を持つ匂いに応答する糸球クラスターの境界と、DIドメインとDIIドメインの境界が部分的に一致することが明らかになった。 (J. Neurophysiologyより転載)

 

図2
A.マウス嗅球背側表面上のDIドメイン(OCAM-&GFP-)、DIIドメイン(OCAM-&GFP+)、Vドメイン(OCAM+&GFP+)の糸球をマッピングした結果を示した。DIドメインとDIIドメインの境界を赤の点線で示す。 B.天敵の匂い(TMT)やマウスの尿中に存在する匂い(SBT, IPT, DHB)などマウスの異種あるいは同種の社会コミュニケーション反応に関する匂いに応答する糸球をintrinsic signal imagingの方法を用いて可視化した。 C.Aの緑で囲んだ領域の拡大図を示す。Bで用いたチアゾール・チアゾリン類に応答する糸球クラスターを新たにクラスターJと定義した。 D.Cの図で①から⑨まで番号を付けた糸球の、各々の匂いに対する応答性を示した。 (J. Neurophysiologyより転載)

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