研究成果 東京大学・久保健雄  平成21年6月28日

脳の神経接続が成長過程で削除されるか否かの決定機構

*林 悠1,4、広津 崇亮2、岩田 遼3、中臺 枝里子1,5、國友 博文3、石原 健2、飯野 雄一3、久保 健雄1 (1東京大学・大学院理学系研究科生物科学専攻、2九州大学・大学院理学研究院生物科学専攻、3東京大学・大学院理学系研究科生物化学専攻、4(現)理化学研究所・脳科学総合研究センター行動遺伝学技術開発チーム、5(現)東京女子医科大学・第二生理学教室)*:corresponding author

Nature Neuroscience 12: 981-987, 2009

 脳の成熟に伴い、ニューロン間を結ぶ不要な神経突起は削除されます。この現象は“刈り込み(pruning)”と呼ばれ、機能的な神経回路を構築する重要な過程として注目されています。しかしながら、刈り込みに関わる分子はまだほとんど知られておらず、どのようにして削除される神経突起と維持される神経突起が区別されるかはよく分かっていませんでした。私たちは以前、単純なモデル動物である線虫C.エレガンスでも、哺乳類と同様に刈り込みが起こることを発見しました。線虫の頭部にあるAIMと呼ばれる左右一対のニューロンは、ふ化直後には神経突起で互いにつながっていますが、成長に伴い多くの個体でこの神経突起は削除されます(図1)。今回私たちは、Wntという分泌タンパク質を過剰に作用させたトランスジェニック系統だと、多くの個体でAIM間の神経突起が削除されずに残ってしまうことを見出しました。逆にWnt遺伝子を破壊した変異体では、削除が起こる頻度が著しく増加していました。従って、神経突起がWntを捕えられると維持され、捕えられないと削除されることが判明しました(図2)。なお、その際に神経突起は、これまでWnt受容体としての役割がほとんど知られていなかったRorという膜タンパク質を介して、Wntを受容することも明らかになりました。

図1

図2

 

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図1:線虫C.エレガンスの頭部ニューロンAIMに見られる神経突起の刈り込み。AIMの細胞体および刈り込みを受ける神経突起をそれぞれ点線と矢頭で示す。野生株では9割程度の個体でこのような成長に伴うAIM間の刈り込みが起こる。スケールバーは5μmを表す。

図2:今回明らかとなった線虫におけるWntを介した刈り込みの制御機構。

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