研究成果 東京大学・久保健雄 平成22年1月21日
採餌行動と定位飛行をしているミツバチ働き蜂の脳の視葉(視覚中枢)では、GABAergic(抑制性)とnon-GABAergicニューロンの両方の神経興奮が活性化している
*木矢 剛智1、久保 健雄2(1金沢大学理工研究域自然システ学系、2 東京大学・大学院理学系研究科・生物科学専攻)*:corresponding author
PLoS ONE 5(1): e8833
ミツバチの働き蜂は餌場を見つけ、その位置情報を仲間に伝達する高度な視覚情報処理能力をもちます。この神経基盤を調べる目的で、私たちは、採餌蜂と定位飛行蜂(巣の位置を覚えている働き蜂)の脳の視葉(視覚中枢)において抑制性神経伝達物質GABAを合成するニューロン(GABAergicニューロン)とそれ以外のニューロン(non-GABAergicニューロン)の神経活動を比較しました。方法は、私たちが以前にミツバチから同定した初期応答遺伝子kakusei(神経興奮後一過的にニューロンで発現する)とGABA合成酵素GADの遺伝子発現を、採餌蜂や定位飛行蜂の脳切片を用いた二重in situハイブリダイゼーション法で調べました(図1)。その結果、採餌飛行蜂と定位飛行蜂の視葉ではGABAergicとnon-GABAergicニューロンの両方が興奮していること、GABAergicニューロンは採餌蜂や定位飛行蜂では、触角葉より視葉でより興奮していることを見出しました(図2)。このことから採餌蜂や定位飛行蜂の視葉では複雑な視覚情報処理が行われていること、また嗅覚より視覚の情報処理が優勢であることを示唆しました。
図1 クリックで大きい画像へ
図1 働き蜂の脳におけるGADの遺伝子Amgadとkakuseiの二重in situハイブリダイゼーション法。(A)と(B) Amgadのin situハイブリダイゼーションの結果。視葉(LAとME)と触角葉(AL)で主に発現している。(C) 視葉の横断面の模式図。RE、網膜;LA、視葉板;ME、視髄;LO、視小葉。(D-G) 麻酔から覚醒した働き蜂(脳全体で神経興奮が誘導される)の脳の、パネルAとBの枠内の領域についてのGADとkakuseiの二重in situハイブリダイゼーション法の結果。マゼンダ、赤、青はAmgadとkakuseiの発現と核染色を示す。黄色矢印は興奮しているGABAergicニューロン、白矢印は興奮しているnon-GABAergicニューロンを示す。
図2 クリックで大きい画像へ
図2 定位飛行蜂の脳における定位飛行開始後、脳領野毎のGABAergicとnon-GABAergicニューロンの発現の比較。(A)と(B) 視葉の2つの領域(LA-MEとME-LO:図1参照)で、定位飛行開始後15分GABAergic(緑)とnon-GABAergicニューロン(青)の両方でkakusei発現(興奮している)細胞の割合が増加している。(C) 触角葉(AL)はほぼ全てGABAergicニューロンが占めるが、その割合は飛行開始後も顕著には増加しない。(G) 視葉の2つの領域と比べて、触角葉では興奮しているGABAergicニューロンの割合が少ない(麻酔から覚醒した場合には、両者に有意な差はない。論文を参照)。