研究成果 東京大学・久保健雄 平成22年2月16日

脳領野選択的に発現する遺伝子を用いた、ミツバチ視葉(視覚中枢)の新規なモジュール構造の発見

金子 九美1、堀 沙耶香1、森本 舞1、中岡 貴義1、Rajib Kumar Paul1、藤幸 知子1、白井 健一1、若本 朋子2、坪子 理美1、竹内 秀明1、*久保 健雄1(1 東京大学・大学院理学系研究科生物科学専攻、2 DNAチップリサーチ研究所)*:corresponding author 

PLoS ONE 5(2): e9213

 ミツバチは餌場の位置(距離と方向)を仲間に8の字ダンスを用いて伝達しますが、この距離測定では、飛行中に視野を横切る視覚対象の流れ(視覚流動)が利用されます。私たちは、ミツバチの脳における視覚情報処理の仕組みを調べる目的で、脳で視葉(視覚中枢)選択的に発現する遺伝子を検索しました。ミツバチの視葉は外から視葉板・視髄・視小葉の3層から構成されますが、同定した2つの遺伝子の内、1つは微小管関連タンパク質Futschの遺伝子で、似た機能をもつTauの遺伝子と伴に、視葉板の単極細胞に強く発現していました(図1,2)。単極細胞は視覚対象のコントラストの抽出に働くと推定されています。もう1つはRas/MAPK経路で働くとされるMESK2をコードしており、視葉板—視髄間の腹部寄りに、前後軸に沿って水平に分布する神経細胞群に強く発現していました(図1,2)。動物の視覚中枢で水平に分布する神経細胞層が発見される例は稀であり、地上の視覚情報(視覚流動等)の検出に働く可能性があります。これら遺伝子は視葉の新規モジュール構造の同定に役立つのみならず今後、視葉の神経回路の可視化・機能解析に利用可能と期待されます。

 

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図1:ミツバチ脳におけるFutsch (A)とMESK2 (B)の発現パターンの模式図。それぞれ、ミツバチ脳の右半球を示し、灰色の部分はニューロパイル、ピンク色の部分はFutschとMESK2が弱く発現する、神経細胞体が集合する部分。各遺伝子が強く発現する神経細胞の位置を赤点で模式的に示す。(C) 雄蜂の脳におけるMESK2の発現の模式図。右と左はそれぞれ頭部のクチクラの外観と脳の模式図。ピンク色の帯の部分がMESK2を強く発現する神経細胞が存在する領域。

 

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図2左 In situハイブリダイゼーション法による、働き蜂脳におけるFutschの発現解析。(A) 脳の右半球の模式図。(B) アンチセンスプローブ、(C) センスプローブを用いた結果。(D) (E) パネル(A)の枠D, Eの拡大図。矢尻でFutschを強く発現する単極細胞を示す。

図2右 In situハイブリダイゼーション法による、雄脳におけるMESK2の発現解析。(A) 脳の右半球の模式図。(B) アンチセンスプローブ、(C) センスプローブを用いた結果。(D) (E) パネル(A)の枠D, Eの拡大図。矢尻でMESK2を強く発現する神経細胞を示す。視葉板 (me)と視髄 (lo) の間の腹側寄りに存在する神経細胞群に強く発現する。この細胞群は視葉の前後方向に沿った水平な領域に存在する。

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