研究成果 東京大学・増田直紀 平成22年11月21日
線虫の移動行動に見られるべき則
大久保 潤(東京大学・物性研究所)、吉田 和史、飯野 雄一(東京大学・大学院理学系研究科生物化学専攻)、*増田 直紀(東京大学・大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻)*:corresponding author
Journal of Theoretical Biology,in press,2010
線虫の移動行動は複雑です。具体的には、緩やかにカーブしながら進むことと、時折急激な方向転換を行うことを織り交ぜながら、例えば餌の濃度が高い位置へ向かって行きます(図1)。後者の「急激な方向転換」については、その統計的性質などがよく調べられています。一方、前者の「緩やかにカーブしながら進む」ことについては、好きな化学物質の濃度が高い側に徐々に曲がっていく風見鶏機構の存在を除いては、よくわかっていませんでした。
そこで、「緩やかにカーブしながら進む」部分について、実験データの解析を行いました。特に、線虫が曲がる速さ(図2)の統計について調べました。その結果、単位時間で曲がる大きさの分布は、べき分布であることがわかりました。多くのときは曲がる度合いが小さくて直線的に進み、大きめに曲がるときが時折、しかし、それなりの頻繁で起こる、ということです。曲がる大きさは正規分布に従いません。べき分布は、「急激な方向転換」を線虫の軌道から除去した残りのデータについても見られます。
このようなべき分布は、線虫が古典的なランダム・ウォークを行うと仮定すると説明できません。私たちは、べき則を伴う線虫の移動行動を、乗算的なノイズを受けるランダム・ウォークによって数理モデル化しました。生成された軌道は、実際の線虫の軌道と類似していました。この数理モデルでは、移動するために生成される力が、力の大きさに比例した大きさのノイズを伴います。実際の線虫にもこのような比例関係が存在する可能性が示唆されます。
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