研究成果 東京大学・増田直紀 平成23年12月16日

細胞ネットワークの振動周期の精度:理論的研究

郡 宏(お茶の水女子大学・お茶大アカデミック・プロダクション)、河村 洋史(独立行政法人海洋研究開発機構)、*増田 直紀(東京大学・大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻)*:corresponding author

Journal of Theoretical Biology 297: 61-72, 2012

心臓や概日リズムは,ノイズのある環境下でも精確にリズムを刻む生物時計の例です.単一の心筋細胞やニューロンでは,周期的なリズムが刻まれるとしても,その振幅は小さいです.したがって,多数の細胞が同期して周期的なリズムを刻むことによってはじめて,生物時計の機能が実現されていると考えられます.
同期が起こるために振動子の特性や振動子ネットワークの構造が満たすべき理論的条件は,よく調べられています.一方,生物時計には,同期しているだけでなく,ノイズ下であるにも関わらず周期があまり変動しないことが求められます.つまり,同期が行われていても(下図b, c;図aは非同期),集団振動の周期が精確でない場合(図b)と精確である場合(図c)とが区別されます.
各細胞に入ってくるノイズは,細胞同士の通信によって平均化されて減弱されるかもしれません.各分野でよく使われている中心極限定理は,細胞数の平方根にしたがって精度がよくなることを示唆します.しかし,中心極限定理が使えるためには,各細胞が独立に活動していることが数学的に必要です.しかし,同期のためには,細胞同士がネットワークとして結びついていることが必要であり,このとき,各細胞の活動は独立でありません.なので,同期の精確性は簡単にはわからないのです.
我々は,周期の精確性とネットワーク構造との関係を理論的に調べました.枝に方向があって上流と下流が存在するネットワークでは,細胞を増やしたとしても周期は精確にならないことがわかりました.一方,枝に方向がないネットワークでは,中心極限定理と同様に,細胞数の平方根にしたがって周期が精確になることがわかりました.また,その場合でも,細胞数をある数以上に増やすと周期の精確性は頭打ちになることがわかりました.

 

クリックで大きい画像へ

× このページを閉じる