研究成果 関西医科大学・中村加枝 平成24年11月7日

サル尾状核の異なる領域は眼球運動課題において異なる報酬の情報処理をしている。
Differential reward coding in the subdivisions of the primate caudate during an oculomotor task

*中村加枝1、松崎竜一1、Gustavo Santos2、*中原裕之21関西医科大学・生理学第二講座、2理化学研究所・脳科学総合研究センター) *:corresponding authors

Journal of Neuroscience(2012)32(45): 15963-15982

大脳基底核は報酬獲得行動の学習や実行にかかわっていることが知られています。しかし、報酬の情報にも異なった時間スケールの内容があります。例えば、たった今行っている行動の報酬の情報、今行っている課題全体の情報、さきほど行った行動の報酬の情報などです。これらが大脳基底核の中でどのように処理をされているのかを明らかにすることは、大脳皮質―基底核ループの中で情報処理がどのように行われているかを理解するのに重要です。私たちはジュースという報酬を得るために眼球運動課題を行っているサルの、大脳基底核の入力チャンネルである線条体の単一神経細胞の神経活動を記録しました。
その結果、異なる報酬の内容は、異なる細胞により異なる形で並列処理されていることがわかりました。そして、似たタイプの細胞は線条体の背外側、中間、腹内側の異なる領域に集まっていることがわかりました。具体的には、報酬に関する一般的なコンテキストの情報は、一試行の開始時に、背外側線条体の細胞で処理されます。一方、試行ごとの報酬の量の情報は、一試行の終了時に、腹内側線条体の細胞で処理されます。また、以前の試行で得られた報酬の記憶の情報が神経活動に反映されている細胞もあり、これは背外側線条体から中間部分の線条体に多く見られました。
このような異なる情報は単一の細胞で同時に表現されるのではなく異なる細胞に表現されており、並列処理されていることを示唆しました。さらに、細胞の自発発火率や活動電位の時間経過という細胞そのものの性質の違いと報酬の情報の内容との関連があることもわかりました。今後、これらの異なる情報の統合が脳のどの領域でどのように行われているかを調べていく必要があります。
今回明らかになった線条体の背外側、中間、腹内側方向の機能マップはこれまでに報告されてきた皮質・皮質下領域との解剖学的結合や伝達物質の分布とも一致していました。これらの所見は運動系疾患や薬物中毒などの病的状態において、より綿密な治療のターゲットの設定の手掛かりになると考えられます。

 

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図1 眼球運動課題
サルは中心の注視点から右か左に眼球運動を行い、正しく行うとジュースを得る。
20試行前後からなるブロックごとに、報酬が多い方向がスイッチする。

 

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図2
左 線条体の各領域
右 線条体の各領域における(1)報酬が多い方向をコードするニューロンの割合(2)得られる報酬の量をコードするニューロンの割合 の時間経過を示す。

 

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