研究成果 首都大学東京・坂井貴臣 平成24年9月6日

ショウジョウバエの扇状体ニューロンはperiod依存的な長期記憶形成に関与する

*坂井貴臣1,井並頌1,佐藤翔馬1,北本年弘2,3(1首都大学東京・理工学研究科生命科学専攻,2Department of Anesthesia and 3Interdisplinary Graduate Programs in Genetics and Neuroscience, University of Iowa,) *:corresponding author

Learning & Memory, (2012) 19: 571-574.

動物がある経験を介して新しい行動パターンを獲得する,いわゆる「行動可塑性」現象は多くの動物種に見られますが,この現象は経験を介した新たな記憶の獲得によって起こると考えられています。ショウジョウバエ(以下,ハエ)でも行動可塑性現象が古くから知られており,記憶の研究に利用されています。ハエのオスは未交尾メスに対して積極的に求愛しますが,一度交尾した既交尾メスに対してはあまり求愛をしません。また,既交尾メスはしばらくの間オスと交尾しません。オスと既交尾メスを狭い容器に7時間一緒に入れておくと(求愛条件付け),その後,未交尾メスとつがわせてもあまり求愛しなくなり,いわゆる求愛抑制を示すようになります(図1)。この求愛抑制は少なくとも5日間以上持続します。この方法によりハエの長期記憶を測定することができます。我々はこれまで,概日リズム形成にかかわるperiod遺伝子(per) がハエの長期記憶形成に必須であることを明らかにしてきました[PNAS (2004) 101: 16058-16063]。しかし,perはハエ脳の多くのニューロンで発現しているにもかかわらず,どのニューロンが求愛条件付けによって作られる長期記憶に関与しているのか,よく分かっていませんでした。本研究では,扇状体(図2)という脳領域を構成するニューロンで発現するperが「長期記憶形成」に必要であることを明らかにしました。


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図1 求愛条件付け
(A) 既交尾メスと7時間条件付けし,5日後にテストを行うと,条件付けしたオスは未交尾のメスに対しても求愛抑制を示す。(B) オスのみを7時間容器に入れておくと,未交尾メスに対して積極的に求愛する。


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図2 ショウジョウバエ脳の扇状体


参考文献 Sakai T, Tamura T, Kitamoto T, Kidokoro Y. (2004) A clock gene, period, plays a key role in long-term memory formation in Drosophila. PNAS 101: 16058-16063.


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