研究成果 岩手大学・新貝鉚蔵 平成21年4月9日
線虫ASK 感覚神経細胞のカルシウムイメージング
若林篤光1、木村由紀裕1、大場祐介1、安達良太1、佐藤洋一2、*新貝鉚蔵1( 1 岩手大学工学部、2 岩手医科大学医学部)*:corresponding author
Biochimica et Biophysica Acta 1790 (2009) 765-769
生き物を取りまく環境からもたらされる、光、音、味、匂いなどの感覚刺激は、神経系の働きにより、最終的には動物の様々な行動を引き起こします。このような感覚入力から行動出力に至る情報処理過程において、感覚神経細胞による感覚刺激の検出・受容は、情報の入り口となるきわめて重要なステップです。線虫(C. elegans)は、味、匂い、温度などの感覚刺激の大半を12種類の感覚神経細胞によって検出しています。私たちは今回、12種類の感覚神経細胞のうちASKと呼ばれる感覚神経細胞に特に注目し、この神経細胞の感覚刺激への応答性をカルシウムイメージングと呼ばれる方法で調べました。先行する研究によりASK神経は、アミノ酸のひとつであるリジンへの誘引行動に深く関与することが知られており、また神経細胞が興奮することによって線虫の後退運動が促進されることが示唆されていました。今回の研究において、野生型の線虫に対してリジンを投与したところ、ASK神経細胞内のカルシウム濃度が低下(すなわち神経の興奮性が抑えられた)し、一方、リジン刺激を除去したときにASK神経細胞内のカルシウム濃度が増加する(神経細胞が興奮した)ことがわかりました(図)。これは、線虫にとっての誘引刺激であるリジンが存在するときには前進運動を継続してより高い濃度のリジンに向かって移動し、リジンがなくなった、あるいは減少したときには後退運動とそれに伴う方向転換によって再びリジンのある方向へとむかうという走化性行動における線虫の動きともよく一致した結果であると言えます。
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図A:ASK神経細胞にカルシウムセンサー型蛍光タンパク質を発現している線虫。図中の矢印がASK感覚神経細胞 B: ASK神経のリジンに対する応答。Aの線虫に予めリジンを投与し(赤BOX)、その後除くと(水色BOX)、蛍光強度(神経細胞内のカルシウム濃度)が増加し、一方、予め刺激を与えていない線虫にリジン刺激を投与すると(赤BOX)、神経細胞内のカルシウム濃度が低下した。