研究成果 岩手大学・新貝鉚蔵 平成24年8月23日

線虫匂い感覚ニューロンの細胞内情報処理モデル

宇壽山 衛、牛田 千里、*新貝 鉚蔵(岩手大学・工学部)*:corresponding author

PLoS ONE 7(8): e42907. doi:10.1371/journal.pone.0042907.

線虫C. エレガンスは感覚神経細胞がよく発達しています。臭い・味覚物質・温度・酸素・炭酸ガス・ホルモン・磁気など多くの刺激に反応します。最近、細胞内のカルシウム濃度変化を蛍光変化でモニターする方法を使って神経細胞の反応をしらべた実験が多く報告されています。そこで実験結果が比較的多い細胞の一つである嗅覚神経細胞AWCを対象にして、AWC細胞内のカルシウム濃度変化を再現することを目的としたモデルを作成しました。線虫はAWCで感知する匂い物質に反応してその濃度の濃い方向に移動します。匂い刺激を与えた時およびそれを除去した時に、細胞内の情報伝達を担う物質がどのように連鎖反応を起こしてカルシウム濃度変化になるか不明な点が多いので、いくつかの仮定をしました。遺伝的アルゴリズムという方法で情報伝達の反応方程式の係数を適切に決めると、細胞内カルシウム濃度を、匂い刺激の刺激期間の長さや2回目の刺激に反応して、実験データを再現するように変化させることができました。このモデルを使って情報伝達回路のどの要素がノイズに対して敏感なのかを調べたところ、カルシウムの排出に関わる要素が敏感であることが推定されました。また、2つの要素にノイズを入れたときにそれら単独の反応の単純な和でなくてより大きな反応を示す場合があることが分かりました。


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図1  信号伝達経路(本論文で使用した仮説)。

匂い刺激中の細胞内の反応は次のように進みます: 匂い刺激 → 匂い物質の受容体への結合 → G-蛋白質のGαサブユニットの活性化 → グアニル酸シクラーゼ(GCY)の抑制 → cGMP合成の減少 → CNGチャネルからのカルシウムイオンの流入の減少 → 細胞内カルシウム濃度減少 → GCAPの抑制解除 → GCAPがGCYに結合しその複合体がGαによって抑制されたまま匂い刺激期間中に蓄積。
匂い刺激終了後の細胞内の反応は次の様に進みます: 匂い刺激の除去 → Gαサブユニットの不活性化 → GCY-CCAP複合体の活性化 → cGMPの増加 → CNGチャネルからのカルシウムイオンの流入の増加 → 一過性の細胞内カルシウム濃度増加


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図2 細胞内カルシウム濃度の変化。

(左)匂い刺激中にカルシウム濃度は減少します。(中)刺激期間が1、3、5分間の場合、刺激が長いほど刺激終了後の濃度乗上昇は大きい。(右)5分間の1回目刺激が終了した後、10秒または30秒してから2回目の20秒間の刺激を与えると、刺激期間中やはりカルシウム濃度は減少します。これらのシミュレーション結果はChalasani等の実験結果(2007年)を再現しています。


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