研究成果 広島大学・辻敏夫 平成21年2月7日
小型魚類から発生する生体電気信号の非拘束/非侵襲計測
―エラ呼吸に伴って発生する電気信号を利用した水質汚染検出システムの開発―
寺脇 充、平野 旭、曽 智、*辻 敏夫(広島大学・大学院工学研究科)*:corresponding author
Artificial Life and Robotics 14: 342-347, 2009
浄水場では、私たちに安全な水を供給するために原水に含まれている化学物質を定期的に検査しています。しかし、化学物質にはたくさんの種類があり、それらの全てをチェックすることは非常に困難です。そこで、魚を使って水質の検査をするバイオアッセイという方法が盛んに研究されています。生き物に影響を及ぼす物質が存在していれば、魚の泳ぎ方などに変化が生じるからです。これまでのバイオアッセイは、主に魚の泳ぎ方だけを観察していましたが、私たちは魚から発生する微弱な電気信号に注目しました。実は、どのような魚からも、呼吸をするときに数~数十µVの呼吸波と呼ばれる電気信号が発生しています。私たちは、泳いでいるメダカからこの呼吸波をとらえるための計測システムを構築しました。そして、メダカが泳いでいる水槽の中に数滴の家庭用漂白剤を入れる実験を行い、呼吸波からメダカの呼吸のリズムを解析しました。すると、メダカは水槽の中でじっとしているにもかかわらず、漂白剤を入れた直後から呼吸のリズムが乱れるという現象が観測されました。このことから、私たちのシステムは、泳ぎ方からでは判断できないような水の汚染を検知できる可能性があると考えています。
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図1.水槽の底面に配置した電極から魚が発する電気信号を計測します。計測された信号は非常に微弱なため、差動増幅という方法で信号を50,000倍に増幅します。増幅した信号は、A/D変換を経てパソコンに入力します。パソコンでは、入力された信号に対して周波数解析を行い、呼吸のリズムを観測します。
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図2.図は上から順に、呼吸波、周波数解析結果(呼吸のリズム)、魚の遊泳軌跡を表しています。左の列は漂白剤暴露前、右は漂白剤暴露直後のデータを示しています。周波数解析結果を示す図の縦軸は周波数、横軸は時間で、周波数成分の強い部分が白色で示されています。暴露後、信号の周波数成分が散らばっていることから、呼吸のリズムが乱れていることが分かります。また、遊泳軌跡から漂白剤を暴露した後、魚は同じ場所に留まっていることが分かります。このシステムを使うと、魚が落ち着いてじっとしているのか、危険を感じてじっとしているのか判断できるため、水の汚染をいち早く発見できる可能性があります。