研究成果 広島大学・辻敏夫 平成22年3月8日

大腸菌の化学走性モデルを用いた移動ロボットのバイオミメティック制御
―生物のソフトウェアモデルに基づいて移動ロボットを制御する―

*辻 敏夫(広島大学・大学院工学研究院)、鈴木 芳代(日本原子力研究開発機構・量子ビーム応用研究部門)、滝口 昇(金沢大学・理工研究域)、大竹 久夫(大阪大学・大学院工学研究科)*:corresponding author 

Artificial Life 16: 155-177, 2010

 生命体をシステムとして理解することを目指すシステムズ生物学の進展に伴い、種々の生物、生命現象を対象としたコンピュータシミュレーション用ソフトウェアの開発がさかんに行われ、生物実験の補助ツールとして利用されるようになってきました。生命体をシステムとして理解するためには、生命体のハードウェアとともに、ソフトウェアを解明することが必要です。生命体のソフトウェアとは、生命体がシステムとして存続し続けるために必要とするアルゴリズム(方法と手順)の総体のことです。生命体のハードウェアが遺伝子を基本単位として説明されるように、生命体の振る舞いのすべてもまたアルゴリズムを基本単位として説明できるものと考えられます。私たちは今回、大腸菌の環境探索行動(特に化学物質に対する応答)のアルゴリズムを記述した化学走性モデルを作成し、誘引物質への集積行動や有害物質からの忌避行動といった環境適応的な応答をコンピュータ上で再現できることを示しました。また、このモデルを移動ロボットの運動制御アルゴリズムとして利用することで、大腸菌同様の環境適応行動を実現できることを示しました。私たちの結果は、これまでに生化学分析等の目的のために提案されてきた数多くの優れた生命体ソフトウェアが、その本来の目的を超えて、ロボットのような人工物の環境適応制御問題にも適用できる可能性があることを示唆しています。

 

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図1:大腸菌の化学走性モデルを用いた移動ロボットの環境適応制御の概略

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