研究成果 広島大学・辻 敏夫 平成23年2月22日

ニオイによって誘発される神経活動をコンピュータで予測する

曽 智(広島大学・大学院医歯薬保健学研究科)、*辻 敏夫(広島大学・大学院工学研究院)、滝口 昇(金沢大学・理工研究域)、大竹 久夫(大阪大学・大学院工学研究科)
*:corresponding author

Chemical Senses 36(5): 413-424, 2011

ニオイは40万種類以上ものニオイ分子から構成されている非常に複雑な情報ですが、ヒトを含め多くの動物はさまざまなニオイを巧みに識別しています。脳がどのようにしてニオイを識別しているのかを探るためのヒントは、糸球体層という部位に誘発されるニオイに対応した固有の神経活動パターンにあります。従来から、嗅覚系の情報処理機構を解明するために、ヒトと共通の嗅覚構造を持つラットを使った糸球体の神経活動パターン計測が盛んにおこなわれてきました。しかし、莫大な種類があるニオイ分子一つ一つについてこの活動パターンを計測することは容易ではありません。そこで、私たちはグラフカーネル法とニューラルネットという2つの技術を組み合わせた糸球体層の神経活動パターン予測モデルを提案しました。予測の結果、分子によってばらつきはあるものの、ある程度の予測精度が期待できることがわかりました。予測精度の低い分子が現れた一因は、分子を2次元の枝と頂点から構成されるグラフとして表現していることに限界があったためと考えられますので、今後は分子の特徴を抽出する手法について改良する予定です。

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図1 (a) 23種類のニオイ分子に対する糸球体層の活動パターン予測結果の一例。上から順に、分子名、予測した活動パターン、ラットから計測した活動パターン(http://gara.bio.uci.edu/から引用)、計測した活動パターンと予測した活動パターン間の相関を表しており、相関の低い予測結果を左から昇順に並べている。活動パターンの図において、各ピクセルは一つの糸球体の反応に対応しており、反応が強い糸球体がある部位は赤で表されている。相関の平均値は0.55±0.26であった。
(b) 23種類のニオイ分子に対する予測精度(相関)のヒストグラム。横軸は相関、縦軸は分子の種類の数。相関が0.5を下回った分子は4種類であり、残りの19種類は0.5以上の相関があったことから、ある程度の予測精度が得られていることがわかる。


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