研究成果 広島大学・辻 敏夫 平成24年2月2日
生物の運動リズムを神経振動子モデルを用いてシミュレートする
服部 佑哉(広島大学・大学院工学研究科)、鈴木 芳代(日本原子力研究開発機構・量子ビーム応用研究部門)、曽 智(広島大学・大学院医歯薬保健学研究科)、小林 泰彦(日本原子力研究開発機構・量子ビーム応用研究部門)、*辻 敏夫(広島大学・大学院工学研究院)*:corresponding author
Neural Computation 24: 635-675, 2012 (doi:10.1162/NECO_a_00249)
歩行や遊泳、拍動といった生物のリズミカルな反復運動は、リズム生成器であるCentral Pattern Generator(CPG)と呼ばれる神経ネットワークで制御されていますが、その詳しい動作メカニズムはよく分かっていません。私たちは、このメカニズムを理解するためのアプローチとして、CPG の数理モデルである神経振動子(図1)を用いた運動リズム生成に取り組みました。神経振動子には、神経細胞の応答特性や細胞間情報伝達量を表す多くの変数(パラメータ)が含まれており、神経振動子で生物の運動リズムをシミュレートするためには、全てのパラメータの値を適切に調整する必要がありました。本論文では、非線形特性を有する神経振動子の挙動解析によって導出したパラメータ調整則と最適解探索アルゴリズムとを組み合わせた新しいパラメータ自動調整法を考案し、従来は困難だった規模の大きな神経振動子のパラメータの自動調整に成功しました。そして、この方法を用いることにより、人工的に作成したリズム信号や線虫C. elegansの前進運動から観測したリズム信号など、さまざまな運動リズムをシミュレートすることに成功しました(図2A、B)。
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図1:提案する梯子型神経振動子モデル
興奮性神経細胞(〇)のペアが興奮性の結合(→)でつながり、梯子状にNペアが連なった構造をしています。また、興奮性神経細胞に抑制性神経細胞(グレーの点線〇)が抑制性の結合(・)でつながっています。興奮性神経細胞の各ペア(n = 1, 2, …, N)からの出力信号は、隣り合う興奮性神経細胞のペアに伝播されます。
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図2:梯子型神経振動子の興奮性神経細胞の各ペアの出力信号yn (n = 1, 2, …, 6)の例。点線は目標としたリズム信号であり、実線は点線を再現するようにパラメータを調整した梯子型神経振動子の出力信号です。
(A) 人工的に作成したリズム信号を再現した結果、(B) 線虫C. elegansの前進運動から観測したリズム信号を再現した結果。6ペア全ての出力信号が目標出力信号をおおよそ再現していることが分かります。