研究成果 北海道大学・和多和宏 平成22年7月15日

Dusp1は自然界の音や光、体性感覚刺激によって脳内で発現誘導され、細胞内情報処理に重要な役割を果たしています。

堀田 悠人、*和多 和宏、(北海道大学・大学院理学研院)、Rivas MV、Hara E、*Jarvis ED(デューク大学 医療センター神経生物部門) *:corresponding author

Journal of Comparative Neurology 518: 28730-2901, 2010

 音声発声学習をするソングバードではヒトの言語と同じように、親から囀りを「聞く」ことが重要です。記憶した音声パターンを実際に発声しその音を聴くことや、誰から学ぶのかなど、聴覚や視覚といった感覚情報が発声学習に大きく影響を与えます。脳内において神経活動依存的に発現誘導される遺伝子群が多数知られています.しかし、終脳一次感覚野の神経細胞でそのような遺伝子は発見されていませんでした.本研究では、ソングバードの一種であるキンカチョウを用いて、dual specificity phosphatase1(dusp1)遺伝子が、終脳一次感覚野で神経活動依存的に発現することを示しました。哺乳類(マウス)においても、これらの鳥類の脳部位に相当する感覚野の大脳皮質IV、VI層でも同様にdusp1が発現されています。このことから,鳥類と哺乳類の感覚野における細胞内情報処理の類似点及び、終脳一次感覚野の遺伝子発現制御機構の特殊性が示唆されました。

 

 

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図1: A,B: 相補的なパターンを示す活動電位依存的なdusp1(A)とegr1(B)の発現パターン。
A1,B1:運動に伴う体性感覚刺激により、一次体性感覚野aIHでdusp1、aIHからの投射を受け取るAH、AMD野でegr1が発現誘導されるだけでなく、自らが作る騒音を聞くことよって一次聴覚野L2でdusp1、L2からの投射を受けるN-L2野でegr1が発現誘導される。
A2,B2:それに対して、耳の聞こえない鳥では、聴覚野での活動が起きないため、遺伝子の発現誘導は見られない。Scale bar = 1mm. C: GENSATデータベースより得られたマウス脳でのDusp1-eGFP発現パターン(GENSAT Project, NINDS Contract #N01NS02331 to The Rockefeller University, New York, NY)。

 

 

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図2:遺伝子発現パターンの概略図。鳥類の脳の5つの感覚経路を示す。視蓋などの少数の例外を除き、視床・終脳どちらにおいても、一次の感覚野においてはdusp1が、高次感覚野ではegr1が発現誘導され、2つの遺伝子は相補的な発現パターンを示している。

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