研究成果 理化学研究所・吉原良浩 平成21年6月16日

美味しそうな匂いを伝える嗅覚神経回路を同定

小出哲也1、宮坂信彦1、森本耕造1、浅川和秀2、浦崎明宏2、川上浩一2、*吉原良浩1(1理化学研究所・脳科学総合研究センター・シナプス分子機構研究チーム、2国立遺伝学研究所・初期発生研究部門)*:corresponding author

Proc Natl Acad Sci USA 106: 9884-9889, 2009

 多くの動物では、匂いの情報を介して、食べ物の探索行動、個体の認識、生殖活動の誘発、危険回避行動など生存に不可欠な行動が制御されています。嗅覚は、物体から発せられる様々な「匂い分子」を鼻の奥にある感覚神経細胞(嗅細胞)によって受容し、その情報を脳の入り口の嗅球、さらには高次の嗅覚中枢へと伝えることによって認識・識別する感覚です。しかしながら、匂いによって喚起される行動を司る神経接続様式についてはほとんど分かっていませんでした。研究チームは、遺伝子工学的手法を用いて特定の嗅覚神経回路を可視化あるいは遮断することができるゼブラフィッシュを作製し、特定の嗅細胞から嗅球への接続様式とその機能を詳細に解析しました(図1)。その結果、嗅球外側部への神経伝達を遮断したゼブラフィッシュでは、本来「好きな匂い」であるはずのアミノ酸への誘引反応が消失することを発見しました(図2)。今回の成果により、アミノ酸への誘引行動を引き起こす神経回路を初めて明らかにし、匂いによって呼び起こされる「好き・嫌い」の感情のメカニズムを解明する糸口を見いだしました。また、今回開発した手法を用いることで、感覚入力(匂い)と機能的出力(行動)を介在する神経回路の理解に大きく貢献するものと期待されます。

 

 

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図1: 嗅覚神経回路を可視化したトランスジェニックゼブラフィッシュ
(A) Gal4-UASシステムを用いた遺伝子トラップ法の概略図。酵母由来の転写因子Gal4を発現する遺伝子トラップ系統とUAS (Gal4応答配列)の下流にGFPをつないだレポーターフィッシュを掛け合わせることにより、次世代でGal4発現細胞特異的にGFPの蛍光が観察できる。(B) 異なる種類の一部の嗅覚細胞群にGFPを発現する3種類のトランスジェニックゼブラフィッシュ系統。(SAGFF27A, SAGFF91B, SAGFF179A)。5日目胚の模式図(1)。5日目胚を正面から観察(2-4)。GFPで標識された神経線維は嗅球内の異なる糸球体に投射していることがわかる。成魚の前脳の模式図(5)。成魚の嗅球を背側から観察(6-8)。

 

 

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図2: アミノ酸に対する嗅覚行動解析
(A)嗅覚行動解析システム概略図。水槽を泳ぐゼブラフィッシュを上部からビデオ撮影し、アミノ酸溶液投与後の誘引反応を観察。(B) 破傷風毒素(TeTxLC)を用いた神経伝達の遮断方法。破傷風毒素は、シナプス小胞の開口分泌を担うsynaptobrevin を切断することで神経伝達を遮断する。Gal4-UASシステムによりGal4発現細胞特異的に神経伝達の遮断方法ができる。(C)鼻から嗅球へ至る異なる神経回路を遮断したゼブラフィッシュのアミノ酸への誘引度を示す「好き・嫌いインデックス」。嗅上皮除去(鼻除去;左から2番目)と微絨毛嗅細胞から嗅球外側部糸球体に至る神経回路を遮断(左から3番目)したゼブラフィッシュではアミノ酸への誘引を示さない。

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