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線虫の特定の神経細胞の遺伝子発現の解析のための手法の開発
近年の急速なゲノム塩基配列情報の蓄積により、その情報の生物学的な意義を明らかにするための方法論が求められています。線虫は上記のような利点から、細胞の機能と全遺伝子発現とを対応づけて理解するための理想的なモデル生物です。最近遺伝子発現という意味でのゲノム機能解析にマイクロアレイ等を用いた同時発現解析技術が注目されていますが、このようなゲノムの動的機能の理解のためには、高い空間的分解能と遺伝子の変異を用いた機能的分解能を同時に達成する必要があります。我々は、線虫の特定の種類の(究極的には1個の)細胞からRNAを単離し、全遺伝子発現を観察するための手法の開発を行っています。受精卵からの卵割の過程で個々の細胞の遺伝子発現がどう変化して細胞運命の決定がおこるか、あるいは神経回路の中で個々の神経細胞の性質の違いや機能分担が遺伝子発現のどういう違いによってもたらされるかなどの問題点にアプローチします。
このための方法として、以下の手法(poly(A) pull-down法、特許出願中)を開発しました。
「すべてのmRNAが持つポリAテールに結合する性質のあるPABP遺伝子にタグをつけたcDNAを細胞特異的プロモーターに結合し、線虫に導入する。細胞を壊す前にRNAと蛋白質をクロスリンクした後、タグを手がかりに蛋白質-RNA複合体を精製する。こうして単離したRNAをラベルしてマイクロアレイにより発現を解析する。」
方法の図解説明
一つの例として、この方法により感覚神経特異的に発現する遺伝子が同定できることを確認しています(論文 Kunitomo et al., PDF)。この方法を用いることにより、特定の神経細胞の個性を作り出すメカニズムをゲノムレベルで包括的に理解すること、さらに、外界からの刺激に対する特定の神経の応答を包括的に理解することを目指します。
(用語説明)
マイクロアレイ:数年前に開発された技術で、多数の遺伝子のDNAをスライドグラス上に高密度にスポットしたもの。微小なノズルを使って一つの遺伝子を例えば一辺50μm程度の格子状に並べるため、1枚のスライドグラス上に数万の遺伝子をスポットできる。ゲノムプロジェクトやcDNAプロジェクトの成果を利用して、全遺伝子を並べるなどができる。このスライドグラスに対し、細胞から抽出したmRNAを蛍光ラベルしてハイブリダイズさせ、専用の蛍光リーダーで蛍光強度を読み取る。これにより、数万の遺伝子に関して、それぞれがその細胞でどの程度発現しているかが一度にわかる画期的な方法である。
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