線虫の連合学習の解析
我々は線虫における以下のような連合学習を初めて見いだしました。餌(大腸菌)の豊富な条件で培養した線虫はNaClに対し正の走性を示しますが、NaCl存在下で一定時間飢餓を経験させると、NaClに対し負の走性(忌避行動)を示すようになります。しかし、NaCl非存在下での飢餓、あるいは餌のある状態でのNaClの呈示によってはこの行動変化は起こりません。従ってこの現象はNaClと飢餓を関連づけて覚える連合学習であると考えられます。
<スライドでの説明> <論文(Saeki et al.)PDF>
我々は、既存の突然変異体の中からこの学習に欠損を持つ変異体をスクリーニングすることにより、インシュリンシグナル伝達経路が学習に必要であることを見出しました。
インシュリンが哺乳類で血糖値の制御に関わっていることはご存知の通りですが、インシュリン受容体は脳にも多く発現しており、摂食行動の制御に関わっていることが知られています。また、アルツハイマー病患者ではインシュリンレベルが低下しており、インシュリンの投与により記憶学習能が回復するという報告があります。しかしそのメカニズムはほとんど分かっていません。
線虫ではインシュリン経路は感覚入力による発生過程の切り替え(耐性幼虫形成と呼ばれる現象)や、寿命の制御に関わっていることがよく知られています。いずれの制御においてもインシュリン系は神経系で働くことが分かっています。
これらのことから、線虫での学習におけるインシュリン経路の働きを明らかにすることで、新たな知見が得られることを予想して解析を進めています。これまでにPI3キナーゼがインシュリン受容体の下流で働くこと、これが感覚神経で働くことを明らかにしています。
さらに、変異原処理によりこの学習に異常のある変異体を分離しており、原因遺伝子の同定により、新たな因子を見つけることも進めています。
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